[h:※おことわり]
本記事は個人的な理解に沿って執筆しており、必ずしも詰棋界のコンセンサスを示すことを目的としておりません。もし大幅な解釈違いがありましたらコメントでご指摘いただければ幸いです。
また、将棋用語と重なるもの(eg. 桂吊るし)や元来の専門用語(eg. 高木手筋)は扱わず、あくまで「よく考えたら界隈でしか使われていない気がする」ものをまとめます。ただ、この辺りの収録基準はあいまいです。
[h:そもそも編]
[sh:詰将棋]
愛好家は「詰め将棋」とは書かない。複合語になる場合はさらに縮めて「詰棋」となることも。例えば「詰棋界」「詰棋人」など。
同様に「〜詰」となる言葉はほとんど送り仮名を書きません。例えば「煙詰」「3手詰」「打歩詰」など。他にも「持駒」「無仕掛」など、送り仮名を省略しがちな言葉は枚挙に暇がない。限られた誌面で多くを伝えるための工夫が定着したのでしょうか。
[sh:指将棋]
さししょうぎ。ふつうの(対戦ゲームとしての)将棋をわざわざこう呼びます。そして「指将棋の棋力は?」の質問には「昔は四段でした」のように「昔は」をつけて答える人がなぜか多い。ちなみに筆者は指将棋は級位がわからないくらい弱いが、回り将棋には多少自信があります。
[h:ふつうの言葉っぽいのに編]
[sh:粗検]
確認や検討が不十分なこと。誌面の誤植や不完全作の出題に対して「粗検お詫び申し上げます」というのが典型的な使用例。なぜか変換できない。というか今調べたら国語辞典に載ってなかった。マジか。
[sh:入帖]
購読料が免除になること。創作や解答で優秀成績を収めたり抽選企画に当選したりすると「誌代○ヶ月分入帖」という特典が得られることが多い。国語辞典に載ってなかった。マジか。
[sh:解図]
詰将棋を解くこと。解図力が貧弱で......と謙遜してる人ほど解くのが速かったりする。国語辞典に(ry
似た言葉として「解題」は作品の背景も含めて観賞・解説するニュアンス。また「解答」は解いた上で編集部などに送付する行為をも含みます(例:解答強豪)。もちろんこれらは辞書にも載っている一般的な用語です。
[sh:正算]
詰将棋の作り方の一つ。詰上がりから一手ずつ局面を戻して手数を伸ばしていく「逆算法」に対して、やりたい手順を実現してから局面を微調整して完全作とする方法を「正算法」と呼ぶ。詰将棋に関係ないですが『方丈記』には比叡山にいた正算僧都という人物の話が出てきます。むろん国語辞典には(ry
逆算の対義語としてより正しい「順算」という言い方をする人もいないではないですね。ただ、もはや専門用語として定着してしまってるので「正算」で良い気がしてます。
[h:そんな動詞もあるのね編]
[sh:指がしなる]
指していて気持ちのよい、作品のハイライトとなる一手に対する賛辞。ビシィッ!という効果音と集中線が描き込まれていそうな、すごく漫画的な表現。
[sh:パクる]
駒を(安易に)取ること。パクつく、とも。たいていの場合、落ちてる駒をただパクっても詰まない。なお、他人の作品を自分のものとして勝手に発表する行為は「パクる」という軽々な表現ではなく「剽窃」として強く非難されます。
[sh:すりこむ]
盤上の駒を(玉の近くの急所に)動かすこと。その地点に直接打つのではなく、事前に別の地点に打った駒を活用する含意もある。
......と思っているのですが、イマイチ定まった意味がわからない言い回しの一つ。擦り込む、摺り込むといった表記揺れもあり。
[sh:飛び上がる]
調子良く攻めているはずが、受方に上手く切り返されて詰まないこと。特に双玉図で自玉を抜かれるような紛れで出てきがち。とはいえ、本当にたまげて飛び上がってる人はいないと思いますが......。
[sh:すっぽ抜ける]
指将棋でいうと「とんでもない読み抜けや見落とし」あるいは「攻めが空振りする」という意味が近いですが、詰将棋でいうと玉にすり抜けられたり攻め駒を取られたりして失敗するさまを言うようです。すっぽ抜けそうな不安感が魅力の作品もあります。
[sh:鍋に入る]
茫洋とした局面から手を進めた結果、どうやら詰みそうになること。玉が物理的に追い込まれるのは「鍋に入る」、作意手順らしい手応えを得るのは「筋に入る」と使い分けている気がします。鍋に入るの反対が「大海に逃す」。
[h:ちょっと難しい言い回し編]
[sh:茫洋]
ぼうよう。先ほど「鍋に入る」の項でしれっと使いましたが、これも普段あまり見ないちょっと硬派な漢語でしょうか。詰将棋的には、手のつけどころが見つけづらいとか、玉の周りが物理的に広い、といった意味。
[sh:望蜀]
ぼうしょく。さらに多くを望むこと。すでに完成度の高い作品に注文をつけるときに「○○というのは望蜀か」などと使う。原典は『後漢書』の「人足るを知らざるを苦しみ、既に隴を平らげて、また蜀を望む」より。要するに、一つの望みがかなうとさらにその先を望むこと、人の欲望には限りがないということですね。
[sh:熱心家]
熱心な人(そりゃそうか)。辞書には載っているが、詰将棋以外でほとんど見ない表現。紙幅が足りないとき「〜の手順は省略するが熱心家は研究されたし」などという。わざわざ詰将棋の専門誌なんかを買って読んでる時点でみんな熱心家だと思うのですが。
[sh:一瀉千里]
いっしゃせんり。淀みなくすらすらと進むさま。例えば「中盤の合駒調べを越えればあとは一瀉千里」などという。元の意味は、一度流れ出した川の水はまたたく間に千里も流れる、ということ。
[sh:虚々実々]
きょきょじつじつ。お互いに計略や秘術を尽くして戦うさま。詰将棋では、受方の妙防に対して詰方がそれを上回る攻めで応酬するなど、両者のロジックが重層的になっているさま。孫子の兵法には『虚実篇』という章があり、そこでは戦いの極意とは「実を避けて虚を撃つ」、つまり相手の堅いところではなく弱点を衝けと説かれています。
[h:言葉巧みに品評しましょう編]
[sh:ぼんやり]
指した時点では意図がよく分からない手。詰将棋的に第一感の手ではない、という含みがある。例えば「○○と攻める筋が有力だが、初手はぼんやりと××」といった使われ方。これ自体にあまりネガティブな意味はなく、単に印象の弱い手は「ゆるい」などと評されることが多い。
[sh:とぼけた]
とぼけた手、とぼけた詰上がり、など。どことなくフワッとした、半信半疑になるような手順への評。「ぼんやり」と同様それほど悪い意味ではなく、これはこれで味があっていいよねというニュアンス。
......だと思う。言語化が難しい。この記事を書くなかで一番迷いました。とぼけた手は「とぼけた」としか言いようがない。
[sh:不利感]
局所的には不利に感じる手のこと。典型的には捨て駒。他にも、高い持駒を先に使ったり(不利先打)や、攻め駒が玉から離れる方向に動く(そっぽ)など、いろいろな演出がある。
不利といっても詰まないといけないから大局的には有利だし、解く側もそれがわかっているから敢えて不利そうな手を選んで解き進めている。となると、不利感って何だという気にもなるが、それでも心理的に指しにくい手というのは確かに存在する。例えば、......と考えてパッと思いついたのは、高橋和女流の看寿賞作の初手。とてもじゃないが指せない。
[sh:解後感]
詰将棋を解き終わった後の気分。それは爽快感だったり達成感だったり、あるいは徒労感や虚無感だったり。作品の評価を左右する大きな要素で、解後感がよい作品はウケもよくなる。ただ、褒め言葉としての「解後感がよい」はいささか抽象的で、できれば「捨駒が鋭い」「論理が明快」など具体的に言った方が作者の励みになると思います。
ちなみに変換しても「下位互換」しか出ません。便利な言葉なので、他のパズルやそれこそ受験数学なんかにも普及すればいいなと思います。例えば「京大'95文系後期の第4問は解後感がいい」「東工大の微積問題の解後感は如何ともし難い」みたいな。
[sh:絶連]
絶対手の連続、の略。これ以外ないだろうという手を指し続ければ解けること。考えなくても勝手に詰むという意味で「詰む将棋」とも。どちらかというとネガティブな評価。そもそも可能な王手が少なすぎる場合は「一本道」「これくらいしかない」と解説されることもある。
ただ、ある詰将棋が「絶連」かどうかは解答者のレベルに依存する部分もある。自分が難しいなと思った作品に、強い人が「絶連ぎみ」との評を下してて二重に悲しくなることも......。
[sh:完成品]
洗練されており、これ以上の推敲・改良の余地がないと感じさせる作品。特に構想作で歴代最高レベルの完成度になると「(この筋の)決定版」と言われることも。最高級の賛辞です。
[h:おわりに]
ここまで読んでいただきありがとうございます。今後も気になる言葉があれば追加していきたいと思います。皆様の感想もぜひコメントで教えてください!
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